脳卒中とは

脳内の血管が破れる、あるいは詰まるなどの血管障害が起き、様々な症状がみられている状態を脳卒中、または脳血管障害と言います。この場合、脳の血管が詰まることで発症する脳血管障害(脳梗塞、一過性脳虚血発作)と、脳血管が破れることで発症する脳血管障害(脳出血、くも膜下出血)に分類されます。

脳卒中の危険因子

脳梗塞を発生させる危険因子には、高血圧、不整脈(心房細動)、糖尿病、喫煙、肥満などがあります。この中でも、高血圧が特に重要で、高血圧が完全に予防できれば、日本人の脳卒中は今よりも約半分に減ると考えられています。メタボリックシンドロームも脳梗塞の危険因子の一つです。
脳出血やくも膜下出血の場合は、高血圧、喫煙、飲酒が発生に関連する要因です。脳出血の場合は、コレステロール値の異常低値(低栄養)も発生に関与します。

脳卒中の疾患

過性脳虚血発作(TIA)

一過性脳虚血発作(TIA)とは

脳内の血管の流れが一時的に悪くなることで、短時間(数十分程度)ではありますが、脳梗塞でみられるような症状が現れるようになります。これを一過性脳虚血発作と言います。

発症の原因

動脈硬化や不整脈によって、心臓内や付近の動脈で作られた血栓(血の塊)が脳血管まで流れ、そこで血流を悪化させる、あるいは脳血管に動脈硬化が起き、それによって発生した血管狭窄による血流悪化ということが挙げられます。

症状

主な症状は、どちらか片側の手足のしびれやまひ、話がしにくい(呂律が回らない 等)、片側の目が見えにくいといったものですが、長くても1時間程度で症状は消えるようになります。ただ放置が続けば数日~数ヵ月程度の間に脳梗塞を招くこともありますので、上記のような症状がみられたら、速やかにご受診されるようにしてください。

治療方法

治療をする場合、保存療法と手術治療があります。この場合、患者様にみられる症状や程度、発症原因によって治療方法は異なります。
保存療法とは薬物療法になりますが、心房細動などによって血栓が発生しているのであれば、抗凝固薬を使用します。また動脈硬化を起こす原因の大半は生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症 など)なので、それに対する薬物療法や生活習慣の見直しも行っていきます。
手術療法については、頸動脈の一部が細くなって血流を悪化させていると確認された際に行われます。主に2つの方法があります。ひとつは血管(動脈)を切開して、狭窄や詰まりの原因である塊(プラーク)を取り除く頸動脈内膜剥離術(CEA)やカテーテルを血管内に挿入し、血流が悪化している部分で血管を拡張させる頸動脈ステント留置術(CAS)などを行っていきます。

脳梗塞

脳梗塞とは

脳梗塞は、日本人の全脳血管障害の患者様の4分の3を占めると言われている脳血管障害です。主に何らかの原因で脳血管が詰まってしまい、それによって酸素や栄養素を含む血液がその先に行き届かないことで様々な症状がみられるようになります。

発症の原因

脳梗塞に至る原因は、主に脳塞栓と脳血栓の2つとされています。

脳塞栓

脳塞栓は、心臓から脳に至る血液の通り道(血管)の間に血液の塊が作られ、それが血液の流れ(血流)と共に脳血管にまで流れ着き、そこで血管を塞いでしまうことで発生します。この脳塞栓については、心房細動や心筋梗塞などの心疾患によって心臓内で血栓が作られ、それが脳の血管まで流れることで発症する心原性脳塞栓の患者様が最近は多いと言われています。

脳血栓

脳血栓は、脳の血管自体に動脈硬化が引き起こされることで血管が脆弱化し、それによって血管閉塞などが発生します。この脳血栓については、さらにアテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞に分類されますが、前者は頸動脈や頭蓋内の太い血管で起きる動脈硬化が引き金となって発生します。一方の後者は脳内の細い血管が詰まることで起きます。ラクナ梗塞の原因については、主に高血圧と言われています。
なおラクナ梗塞の患者様では、手足のしびれやめまいといった軽度なことが大半ですが、これを繰り返すと認知症やパーキンソン病の発症リスクが高くなります。アテローム血栓性脳梗塞の患者様では、運動障害や感覚障害のほか、失語、失認等の高次脳機能障害などもみられます。(脳血管性認知症)

症状

主な症状として、障害(片側の手足の急に動かなくなる、同じ片側の顔面が麻痺する 等)、言語障害(呂律が回らない、言葉が出ない 等)、視覚障害(物が二重に見える、片目がみえにくい 等)、感覚障害(半身の感覚が鈍い 等)、平衡機能障害(めまい、ふらつき等)などが挙げられます。

治療方法

時間が経過すればするほど病状を悪化させるので速やかに治療を開始し、血流を改善させる(詰まりを解消させる)ことが必要です。発症して間もない状態であれば、血栓溶解薬(t-PA:アルテプラーゼ)という薬物療法などで血栓を溶かしていきます。このほか、血液が固まるのを防ぐために抗凝固薬や抗血小板薬、脳を保護するための薬(脳保護薬)などを使用することもあります。
また薬物療法での改善が難しい場合、カテーテルを足の付け根から挿入し、狭窄部(頸動脈 等)でステントを拡張させて血流を改善させる頚動脈ステント留置術(CAS)が行われることがあります。このほか、血流が滞っている血管に別の箇所から持ってきた血管をつなぐことで血流を改善させるバイパス手術(STA-MCA bypass)などもあります。
なお脳細胞は一度死んでしまうと蘇ることはありません。そのため残った脳細胞を用いることで失った機能を補っていくリハビリテーションも併せて行っていきます。

脳出血

脳出血とは

脳血管が何らかの原因で破れてしまい、それに脳内が出血している状態が脳出血です。同じ脳内に出血する疾患としては、くも膜下出血もありますが、くも膜下腔の太い血管(脳動脈)に発生した動脈瘤から出血している状態がくも膜下出血で、脳の中にある細い血管が損傷を受け出血しているのが脳出血になります。

症状

脳出血の主な症状は、頭痛、嘔吐・吐き気、片手片足のしびれや麻痺、言葉が出ない、歩きにくい、めまいなどです。出血の量が多い、発症した部位が生命にも影響するという場合は、意識障害が起きることもあります。

発症の原因

高血圧をきっかけとした動脈硬化(血管が脆弱化する)と、慢性的に血管に加わり続ける強い圧(高血圧)に耐えられなくなって破れるというケースが最も多いと言われています。そのほか、先天的な脳動静脈奇形(動脈と静脈が毛細血管を間に置かない状態でつながっている)、アミロイドアンギオパチー(高齢者に多い)によって発症することもあります。なお脳出血が起きる部位は5つあるとされ、発症した箇所によって、被殻出血、視床出血、皮膚下出血、脳幹出血(橋出血)、小脳出血に分けられています。

治療方法

患者様の状態が、意識がはっきりしない、生命に影響するという場合は、速やかに手術(血腫除去術:開頭血腫除去術と低侵襲な内視鏡的血腫除去術があります)を行う必要がありますが、それ以外は保存療法です。
保存療法の場合ですが、高血圧が原因であれば血圧を下げて出血を抑える必要があるので、降圧薬を使用し、血圧をコントロールしていきます。また出血によって、脳が腫れていることもあります。そのむくみをとるために抗脳浮腫薬も使用していきます。
また運動障害(手足を上手く動かせない)や言語障害(話しにくい 等)があるという場合は、できるだけお早めにリハビリテーションを行うようにしてください。

くも膜下出血

くも膜下出血とは

脳血管はくも膜の下(くも膜と軟膜の間)を通っているのですが、同血管に何らかの原因でこぶ状の動脈瘤(脳動脈瘤)が発生し、これが破れることで、くも膜下腔に出血している状態をくも膜下出血と言います。動脈瘤が発生する原因は、完全に特定されたわけではありませんが、遺伝的要因や高血圧などが関係しているのではないかと考えられています。

症状

脳動脈瘤は破裂しなければ自覚症状は出にくいと言われていますが、破裂するようになると、今まで経験したことがない激しい頭痛をはじめ、嘔吐や吐き気などがみられます。ただこれは軽度な場合で、中程度以上になると意識を失うようになります。ちなみに意識のない状態がみられても出血量が少なければ回復することはあります。ただ出血量が多い、脳内の奥深い部分にまで出血が及んでいるということであれば、生命に重大な影響が及ぶ、後遺症が残るという可能性もあります。

治療方法

出血によって脳が圧迫を受け、生命にも影響するという場合は、手術療法が行われます。この場合、開頭して血腫を除去し、圧を取り除くなどしていきます。また動脈瘤が再び破裂するようなことがあれば、死亡率も高くなるので、そのための手術療法(脳動脈瘤クリッピング術)やカテーテル治療(コイル塞栓術)も必要となります。